川の流れより早く、時は流れてゆく・・・ /桐生龍(著)

ある地方都市の大学に進学し、 一人暮らしをはじめた涼。 バンド、仲間、恋愛・・・。 その回りで巻き起こる数々の出来事。 切なくも熱い青春小説を連載小説形式で書き綴ります。

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信州の短い夏も終わり、
山々は少しづつ色付きはじめていた。

バンドは練習を重ね、メンバーの技術も向上して
納得のいくものができつつあった。

そうなるとやはりライブがやりたい。
1年の時、バイト先の社長頼みで失敗した僕は、
松本には常時ライブをやっているライブハウスもないので
有志を集めてライブそのものを企画しようと提案した。

森山も乗り気で打ち合わせを重ねた。
色々話すうちに、会社とまではいかないけれど、
ライブ・イベントを企画する組織を立ち上げようということになった。
森山は「代表は風間や!」と言って勝手に決めて、自分は副代表になった。
僕も森山もお金の管理は心もとないものがあるので、
僕と同じ学部でカタブツだけど、
僕らの音楽に興味を持っていた田原を引き入れて会計にした。

名前はこれも森山の一存で「カザマ興業」になった。
彼はやっぱり関西人だった。
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大宮君が僕を慕ってくれるのはうれしい。
「同じ匂い」がすると言ってくれた事もうれしかった。

でも、僕は彼が言うような「ワル」ではなかったし、
普通科の高校を卒業して、親のすねをかじっている大学生だ。
いってみれば彼が一番毛嫌いする存在かもしれない。

彼は僕が大学生だとは思っていないようで、
居酒屋の店員が本業で、水商売でのし上がっていこうとしている
同士のように思っていた。

僕も学生であることを隠すつもりは毛頭なかったのだが、
つい言いそびれて言えなくなってしまった。

さっきの飲み屋で、彼は自分の夢を語りだした。
今はイタ飯チェーン店のしがない雇われ店長だけど、
いつか本場のイタリアで修行をしたい。
何年か後で、日本に戻って自分の店を開きたい。

そして、半端なことばかりやっていた自分の目を覚まさせてくれた
彼女に「世界一のパスタ」を食べさせてやりたい。

僕と同年代なのに、将来を見据えて夢を語る彼がまぶしかった。
僕は全然大した奴じゃないのに、慕ってくれる彼に対して
何ともいえない後ろめたさを感じた。
そこにはリーゼント頭でバイクにまたがり、
ガンを飛ばして中指を立てた大宮君が写っていた。
今の彼は前髪も下ろし、好青年と言う雰囲気なので
そのギャップは大きかった。

「恥ずかしい話なんだけど、俺ずっと族やってて、
 コイツに出会ってから更生したんだよ。」
彼女の方に目をやりながら、少し照れながら彼は言った。

「そうなんだ・・・。結構気合入った写真だね。」
僕はそう言って写真を返した。
すると彼は、
「風間君も昔は結構やってたんじゃないの?
その辺が同じ匂いを感じるんだよね。ワルの鼻は利くから。」

そんなことないよ、と僕が言うと
白状しろよと彼は言ったが、
ちょうどつまみの焼鳥が運ばれてきたので、
その話題はそこで終わってしまった。

その後も楽しく酒を飲み交わし、
12時近くに二人と別れた。

僕はひとりで家に帰るとき、何か据わりの悪さを感じていた。
「いらっしゃいませ!」
扉が開く音がするといっせいに声がかかる。
そこには大宮君が彼女を連れて立っていた。
「風間君いる?」
店長は大宮君の手を引いて、地下のホールに下りてきた。
「風間、大宮さんにビール一本サービスして!」

店長も連日来てくれる大宮君に感謝している。
そして、彼の目当てが僕だと知って、
多少僕の評価も上げてくれているようだった。

その日はヒマだったこともあり、
店長は僕を早上がりさせて、
大宮君と一緒に飲みに行ってこいと言ってくれた。

僕らは三人で大宮君の行きつけの居酒屋へ行った。
僕はいつも来てくれることの礼を言い、
少しためらいながら、そのわけを聞いてみた。

大宮君はニヤリと笑い、
「う~ん、何だろう。風間君が好きなんだよ。」
隣の彼女がクスッと笑う。
「同じ匂いがするっていうか・・・」
と言って、ジャケットの胸ポケットから定期入れを取り出した。
バンド中心の生活を過ごしていたが、
バイトは相変わらず毎日入っていた。

最近は以前に比べると、
新しい女の子と知り合うことは少なくなっていたが、
男性客やカップルが常連になってくれることも多くなっていた。

大宮君が彼女と二人で初めて店に来たのは、
8月に入ったばかりの平日だった。

彼は人懐っこい笑顔で僕にビールを注いでくれた。
連れの彼女はかなり美人で、大人っぽく、
街ですれ違えば、思わず振り向いてしまいそうな女性だった。

彼は大宮という名前で、イタリアレストランのコックをしている。
彼女は駅ビルのブティックで働いているという。

思いのほか話は弾み、
「また来るよ」という一言を残して帰っていった。

「また来る」と言っても実際はなかなか来てくれないのが現実だが、
彼らは次の日も、また次の日も来てくれた。
そのたびにビールをもらい、話も弾んだ。
そしてその後、連続来店記録は5日に達した。
初めてコースケと一緒にスタジオに入ったのは、
梅雨も明け信州にさわやかな夏がやってきた頃だった。

コースケは黒のタンクトップにサングラスをかけて、
スタジオにやってきた。
肩から腕にかけて筋肉が盛り上がり、
何者も寄せ付けないような雰囲気に、
川田と乾は少しギョッとしたようだったが、
二人が挨拶をすると、
彼は「コースケでーす。」とサングラスを外して
おどけた表情をして、辺りに笑いがあふれた。

練習はほとんど問題なく進んだ。
コースケは自分なりにアレンジを加えたり、
アドリブを入れて、グイグイ引っ張っていった。
ドラムとベースは引きずられがちだったが、
何度もあわせていけば、お互いの間合いやコンビネーションを
理解して、もっとよくなっていく気がした。

森山も音に厚みが出て、歌っていても気持ちいいらしく、
かなりノリノリで声もよく出ていた。

練習の後の反省会では、
満場一致でバンドにコースケを迎え入れることが決定した。
喫茶店での話し合いでは、
とにかく一度コースケを入れて
合わせてみようということになった。

川田と乾は会ったことはないが、
「ロクでもない地元の不良少年」という話しか聞かないので、
少し不安そうだった。
森山は僕の希望であればやむを得ないと言ってはいたが、
ギターの腕も知らないので、まずはお手並み拝見といったところだ。

その日のバイトの後、僕のアパートに来たコースケに
バンドの話をしてみた。
コースケは二つ返事でOKしてくれたが、
「でも大丈夫かなー。俺、協調性ないっすよ。」と言った。
確かに誤解されやすいタイプで、
高校でも一匹狼でやってきたみたいだが、
僕はなぜか楽観的だった。
コースケの良さはきっとメンバーに理解されるし、
そのプレイはバンドの方が生かされると確信していた。

ほとんどの曲はオリジナルで、僕と森山の合作なので
その日から、バイトの後は僕の部屋で曲を覚えてもらい練習をした。
1ヵ月ほど前、僕がバイトを終えて駅から少し離れた商店街を
車で走っていると、角材を肩に担いで吠えている少年を見た。
通り過ぎる時、横顔を見るとその少年はその日非番のコースケだった。

僕は急停車して、駆け寄ると彼は興奮して何か叫んでいる。
彼が落ち着くのを待って、断片的に話を聞いた。

コースケが商店街を歩いていると、
酔っ払った二十歳前後の3人組にからまれた。
はじめは3対1なので彼も我慢していたのだが、
たまたまその中の一人が、コースケの両親を知っていて、
飲食店の経営に失敗して失踪した父親と、
水商売で働く母親を侮辱されたことでぶち切れて、
3人相手に大立ち回りをしたらしい。

腕っ節に自信のあったコースケだが、
さすがに大人3人相手では苦戦したらしく、
かなり殴られ、傷も負ったようだ。
それでも最後は角材を振り回して、
3人にかなりのダメージを与えて蹴散らした。

僕は、コースケを助手席に乗せて、家まで送っていった。
次第に落ち着いてきた彼は、助手席で泣いていた。
傷の痛さというよりも、両親を侮辱されたことが悔しくて仕方がなかったのだろう。

僕はそんな不器用なコースケが、たまらなくいとおしく思った。
コースケの母親は夜も家にいないことが多いので、
バイトが終わるとよく僕のアパートに遊びに来た。
酒を飲んで騒いだり、バカな話をしたり。
自分で料理をするコースケは、
インスタントラーメンを自分の味付けで作ってくれたりもした。

コースケいつものように僕の部屋に来たある日、
壁に立てかけてあるギターを見つけて言った。
「涼さん、ギター弾かしてもらってもいいっすか?」

おもむろにギターを受け取った彼は、
華麗な指裁きで弾きはじめた。
何の曲かはわからなかったが、
ブルース調のコード進行で、
リフとカッティングとリードを織り交ぜた、
カッコイイフレーズだった。

コースケがギターを弾けると知らなかった僕は驚いた。
話を聞くと、中学の頃から家に帰ると一人でいることが多かった彼は、
蒸発した父親が残していった安物のフォークギターを
持ち出してはさみしさを紛らすように弾き始めたらしい。

全て自己流で、耳から聞こえた音を再現するうちに弾けるようになり、
最近では夜中に女鳥羽川沿いの河原で弾いているという。
「新しいギターを入れたいんだけど・・・」
バンドでは一応僕がリーダー的な役割を担っているが、
なるべくみんなの意見を聞いていきたいと思っている。
4人のコンビネーションがよくなっている時期だったので、
みんな一様に戸惑った様子だった。
乾は前からキーボードを入れ音にて厚みを出したいと言っていたので、
ギターを入れるということに怪訝そうだった。

僕はストレートなロックバンドを目指していたので、
当面はキーボードは入れようとは思っていなかった。

しばらくして森山が口を開いた。
「で、誰やねん。そのギターは?」
「うん、コースケを考えてる。」
「マジかよ。」

コースケは数ヶ月前に居酒屋バイトに入った高校生だった。
母子家庭で育った彼は、札付きのワルで一通りの悪行をして
停学を繰り返している。

でもなぜか僕にはよくなついて、
「涼さん、涼さん」と慕ってくれていた。
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